こんにちは、らむだやです。
今日は欧州サッカーの話です。昨年のイングランド・プレミアリーグは優勝したマンチェスター・シティ(マンC)が勝ち点98、2位リバプールが勝ち点97と上位2チームの戦績が際立っていました。リバプールの勝ち点97はプレミアリーグ史上3番目の勝ち点であり、それ以上の勝ち点は優勝したマン・Cの98と、前年に優勝したマンCの100のみ。つまり本来なら優勝するのに十分以上の成績だったということです。少し前、名将ファーガソン監督のもとで黄金期を謳歌したマンチェスター・ユナイテッド(マンU)でも、それだけの勝ち点は一度も獲得できなかったわけです。
今年もプレミアリーグは現時点でリバプールが1位、マンCが2位。リバプールはまだ無敗です。この2チームはそれだけレベルの高いサッカーを実現しているわけで、ファンにとっては見ていても楽しいですし、それ自体は結構なことなんですが、私はこの圧倒的な強さが、欧州サッカー秩序の崩壊につながるおそれもあるのではないかと考えています。
どういうことか。プレミアリーグが経済的に成立するためには、スタジアムにお客さんが来てくれる必要があります。サッカーはホーム&アウェーなので、例えばマンCがアウェー戦で地方の下位クラブと戦う場合、その下位クラブのファンがスタジアムに来てくれないと困ります。それぞれのクラブには地元の熱心なサポーターがいて、「おらがチーム」が強豪相手にジャイアントキリング(金星)を達成するのを期待してスタジアムに足を運ぶわけですね。特に欧州サッカーはJリーグと違って、全体的にホームチーム優位で、いかに強豪チームといえどアウェーでは苦戦することも多いというのがこれまでの傾向でした。
しかし、昨年のマンC、リバプールのようにアウェーでもほとんど取りこぼしがないとするとどうでしょう。下位クラブのサポーターからすると、わざわざ高いお金を払ってスタジアムに足を運んでも、がっかりして帰るだけです。いくら地元クラブへの忠誠心があるとはいっても、そういうことが何度も続くと、スタジアムに行く意欲が薄れるのではないでしょうか。私なら、とても行く気になりません。
私のようにプレミアリーグを(テレビですが)観戦する日本人は、殆どの場合、トップ6と呼ばれる強豪(マンC、リバプール、マンU、チェルシー、アーセナル、トットナム)のいずれかを応援していると思います。そうするとレベルの高いサッカーを楽しめ、勝つ可能性も高いので気分良く見終わることが多いです。こういう外国人のファンは、ある意味で、いいとこ取りをしていると言え、強豪チームが強くなればなるほどトクをします。一方で割を食うのが、イングランドの地元の中堅・下位クラブのサポーターです。その不公平感が許容範囲を超え、その結果、中堅・下位クラブがホームスタジアムで集客できなくなると、欧州サッカーの秩序そのものが崩壊する可能性があるというのが私の仮説です。プレミアリーグだけではありません。ドイツのバイエルン・ミュンヘンはブンデスリーガ7連覇中、イタリアのユベントスはセリエA8連覇中、フランスのパリ・サンジェルマンは7シーズンで6度優勝と、タイトル争いの醍醐味はほとんどありません。
もともと、欧州サッカー界には厳然たるクラブ間格差があります。強豪チームの資金力は中堅・下位クラブと雲泥の差があり、リーグ優勝の可能性があるのは数チーム、そしてそれらのチームは下部リーグへの降格の心配もほとんどありません。このあたり、日本のJリーグは大きく異なっており、クラブ間の資金力の差もさほど大きくはなく、例えば浦和レッズのように比較的資金力のあるチームでも、時にはJ2に降格してしまったりします。加えて、上述の通りホームの優位性もあまり無いため、Jリーグは実に競争の激しいリーグです。また、アメリカのスポーツはアメフトをはじめ、資金面での公平性を保つためのルールが欧州サッカーよりもだいぶ厳格な印象です(欧州サッカーでも、フィナンシャルフェアプレーのレギュレーションができましたが、少なくてもビッグクラブと中堅・下位クラブの格差をなくすようなシロモノではないです)。
欧州は良くも悪くも階級社会であり、格差があるのが当たり前、それがサッカーにも反映されているというのが私の印象です。各国のリーグは一握りのビッグクラブ間で優勝争いが行われ、そして各国のビッグクラブを集めて激しい戦いが繰り広げられるのがチャンピオンズリーグ。これが欧州サッカーの「秩序」です。
その意味で、たとえばスペインのレアル・マドリードはこの秩序の最上位クラブの一つですが、秩序を壊さないために「空気を読んでいる」感があります。欧州チャンピオンズリーグでは近年、ジダン監督のもとで前人未到の3連覇を果たしたレアルですが、スペインの国内リーグ(リーガ・エスパニョーラ)では、下位クラブ相手でも(特にアウェーでは)けっこうチャンスを作られ、スキだらけです。取りこぼすことも少なくありません。もちろん手を抜いているわけではないでしょうが、欧州サッカーの秩序を守るためには「受けて立つ」サッカーをした方が良いと考えているフシもあります。日本で言うと「横綱相撲」ですね。逆に、ビッグクラブ間の覇権争いであるチャンピオンズリーグは、いくら勝っても秩序を壊すことにはならないので、全力で取りに行くわけです。
一方で、同じスペインでもライバルのバルセロナは国内リーグで中堅・下位クラブを問答無用で圧倒しようとしている印象です。チャンピオンズリーグでは2年連続で大逆転負けを喫してしまったバルセロナですが、リーガでは容赦ないです。リバプールやマンC、バイエルン、ユベントスと同じように、バルセロナのサッカーも秩序崩壊を促進していると言えます。
もしかしたら、最近導入が進んでいるVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)も、この秩序の崩壊に拍車をかけるかもしれません。以前は、際どいプレーの場合にホーム寄りの笛が吹かれるのが暗黙の了解というか、許される部分がありました。しかしVARが導入されれば、そういうジャッジもひっくり返されてしまいます。そうするとビッグクラブはアウェーでもますます取りこぼしにくくなり、下位クラブはホームでも余計に勝てなくなってきてサポーターからするとつまらないわけですね。
この秩序崩壊(もし実際に起これば)は、実社会で歴史がたどってきた道と似ていると見ることもできます。昔の貴族社会で、貴族が小作人にある程度情けをかけてあげている間は、不平等であってもその体制は継続可能でした。ただ時間の経過とともに、貴族の搾取がある一線を越えて小作人が生活できないレベルまで到達すると、反乱が起き、民主社会へと向かったわけですね。
このアナロジーからも分かる通り、念のために言っておくと、現在の欧州サッカーの秩序が崩壊することが悪いことだと言うつもりは別にありません。どのクラブも同程度の資金力になるように調整され、どのクラブも優勝の可能性も降格の可能性もあるようになれば、今よりも手に汗握るタイトルレースが繰り広げられる可能性があります。その方がサッカーの発展としてより健全であると言っても良いでしょう。戦力が均等化した結果、レベルは下がるかもしれませんが。
ただ、今の欧州サッカーの「格差」は、少なくとも私のような外国人のファンに取っては心地よくもあり、体制が変わってしまうのは寂しいような気もして、複雑な気分です。これも、実社会のアナロジーで言うと、昔話などで出てくる王や貴族の生活に憧れ・ノスタルジーを感じてしまう心理と同じなのかもしれませんね。
それでは、また。